ThinkingDataとgamebizは、1月26日、「ThinkingData 0→1 Meetup 2023 New Year Party」〜現役データアナリストが語るゲーム運営におけるデータ分析設計・マネジメントとは〜と題したセミナーを開催した。
本セミナーでは、各ゲーム会社のデータ分析チームの戦略や組織体制に焦点を絞り、人気タイトルの運営・分析を行なっている株式会社バンダイナムコネクサス、株式会社MIXI、そして株式会社リーン・ニシカタのキーマンが登壇し、それぞれの会社ではどのような体制で取り組んでいるのかなどについて語られた。
本稿ではその模様をレポートしていく。
ユーザーを多面的に理解すること…分析の醍醐味とは
株式会社バンダイナムコネクサス
データ戦略部PAオフィス オフィス長
中村 一哉
株式会社gloopsにてMobage向けソーシャルゲーム分析 をおこない、その後、 シリコンスタジオ株式会社でスマホゲームの分析チーム立ち上げを手掛け、2019年からは株式会社バンダイナムコネクサスにて大 型IPタイトルの分析と分析チームのマネジメントに従事。
株式会社バンダイナムコネクサス
データ戦略部PAオフィスDOPセクション セクション長
滝 隆行
テレビ連動サイトやソーシャルゲームなど大規模トランザクション 処理を担当するエンジニアを経て、Hadoopを使用したデータ 基盤構築やBIツールの作成、 ゲームタイトル分析などデータサイエンス業務に従事。 現在はバンダイナムコネクサスでデータレイクやデータマートの整備を行っている。
まず最初に、バンダイナムコネクサス社からは中村氏と滝氏が登壇した。バンダイナムコネクサスといえば、2017年に設立された会社であり、ブラウザゲームプラットフォーム「enza」やIPファン向け情報発信を担う「Fangage」の開発や運営、そしてバンダイナムコグループのゲームにおける横断的な分析を行なっている。
今回は、そんなバンダイナムコネクサスがどのような体制でデータ分析を行なっているか、何を意識しているのかが語られた。
体制としては、社内ではデータ戦略部という組織があり、そこから技術研究や分析戦略、そしてプロダクトの分析コンサルが担うチームが設けられている。ゲーム分析においては、プロダクトアナリティクスオフィスというチームが構成されており、そこからさらに二つの部署があるそうだ。
元々はデータアナリティクスセクションのみでの構成であったが、後にデータオペレーションセクションが出来上がったという。というのも、ゲーム分析を行なっていくにおいて、いくつか課題があらわになったからだと中村氏は振り返る。
では実際に、どのような流れにてデータ分析を行なっているのか。基本的には以下の流れにて取り組まれているそうだ。
プロダクトの売上最大化を目的とし、KPIの定点観測などの分析による課題発見から最終的な意思決定がなされるまでを行なっていく。こちらの分析サイクルをバンダイナムコネクサスでは毎週〜隔週のペースで行っているそうだ。
ただ、データアナリストが増加するにつれて、問題が起きてきたという。例えば、扱うタイトルが増えることで、各タイトルのデータや分析内容の管理が煩雑になるケースが増えていったそうだ。また、新人アナリストが加わることでの育成コストや関わる人間が増えることによって、行う手法やツールが乱立してしまい、本来の目的を追求しづらくなっていたそうだ。
そこで、”分析官は分析だけに集中させるべき”という考えに基づき、データオペレーションセクションが立ち上げられたという。
データオペレーションセクションでは、滝氏を主導に進められ、データアナリストをサポートしていく体制を構築されている。スケジューラーを開発し、スケジュールやクエリの管理をしやすいように運用する他、ツール化や自動化を進めることでデータ環境の整備などをおこなっている。
▲データポータルは「Looker Studio」を導入し、ツールを統一化。テンプレートなども用意し、簡単に可視化や作成ができるように工夫しているそうだ。
全ては”分析官は分析だけに集中させるべき”という理念において構築されているという。ただ、もちろんデータの抽出や管理も必要となるので、分析以外をサポートする組織が必要と感じたので現在の体制に行き着いたと話す。
ただ、それでもまだまだデータアナリストやアナリティクスエンジニアの存在は必要だと中村氏は語る。今後もゲームビジネスの最大化を行うために取り組みを進めていきたいと同時に、バンダイナムコネクサスでは共に働いてくれるデータアナリストやアナリティクスエンジニアを積極的に採用しているので気になる人はお声がけいただきたいとして講演を終えた。
ゲーム分析の専門家リーン・ニシカタが語るチーム体制の効能とは
株式会社リーン・ニシカタ
西方 智晃 氏
株式会社ディー・エヌ・エー在籍中、分析基盤構築、大規模データ集計、機械学習などの分析業務を手がける。2018年に株式会社リーン・ニシカタを創業し、今は分析×マーケティングを活かしたモバイルアプリへのグロースハック支援を行う。
続いて、ゲーム分析を専門として行うリーン・ニシカタの西方氏が登壇し、チーム制による分析について語られた。
リーン・ニシカタはゲーム分析を得意とした分析会社であり、社内には多くのデータアナリストが所属している。西方氏自身もデータアナリストとして、様々な分析組織に参加していたが、過去に所属していた企業ではデータアナリストを「1プロジェクト1メンバー」としてアサインし、それぞれが専門的に活躍できるようにリソースも確保して分析業務を行なってきていたそうだ。
ただ、そこでは課題がいくつか発生していたという。タスクが増えていくことによって担当者単位での属人的な運用に陥ることが増え、分析のクオリティレベル未達や現場とのコミュニケーションに亀裂が入る事態もあったそうだ。
そのような経緯からリーン・ニシカタではチーム制を導入することになったそうだが、導入するにあたり、どのような要因で問題が発生していたのかを整理していったという。
アナリストそれぞれでも得手不得手の個性はあり、プロジェクトによって求められるスキルセットは多岐にわたる。それぞれのアナリストの苦手領域をどのようにして解消していくかが肝だと西方氏は考え、チーム制として、担当者ごとの得意領域を重ね合わせることで、ボトルネックであったスキル不足を解消するに至ったそうだ。
具体的には、「1チーム1プロジェクト」体制とし、各メンバーは案件を兼務することでタスク過多に陥らないように編成をしているという。
プロジェクトによっては人数も増えていくが、最小ユニットで挙げると、プロジェクトマネージャー、シニアアナリストとアナリストの3人でのユニットになる。
こうすることによって、アウトプットのクオリティ安定化が実現する他、得意領域を重ね合わせているので、期待を超える価値提供も実現することができるようになったそうだ。
他にも、「1チーム1プロジェクト」体制では副次効果もみられたと話す西方氏。メンバーそれぞれがノウハウを吸収し、兼任している他プロジェクトにも展開することで、各メンバーの成長にもつながったそうだ。
ゲーム分析においては、まだまだ専任体制で行っている会社も多い中、効果的な分析を行う上では、チーム体制の重要性は今後も増していくと語る西方氏。今後もゲーム開発・運営の“現場”における意思決定者の参謀役として、ゲーム会社の支援を行なっていきたいとして講演を終えた。
『モンスト』における分析体制や改善の取り組みとは
株式会社MIXI
グループ分析チーム リードアナリスト
土岐 光慶
スマホゲームプランナーを経て、データ分析系ベンチャーファームにてスマホゲームタイトル分析とチームマネジメントに従事。 2021年に株式会社MIXIに入社。2022年にモンスト解析グループ内で分析チームを立ち上げ、現在はタイトル分析を行いつつ分析チームのマネジメントを行っている。
株式会社MIXIからは、リードアナリストの土岐氏が登壇し、『モンスト』における分析体制やチーム組成について講演された。
『モンスト』といえば、もはや説明不要の引っ張りアクションゲーム。今年で10周年を控える長期運営タイトルだ。10年も続くタイトルであり、安定した運営や分析業務が確立されているかというと、多くの課題があったと振り返る土岐氏。
その課題でも1番辛かったのは分析課題に対して、考慮するべき深さと広さが圧倒的に足りていないことだったそうだ。
『モンスト』ではゲーム運営部の中に解析グループという組織が設けられているが、2年前までは分析チームが存在しなかったという。当時でも分析業務は行っていたが、課題の精査や情報収集のやり方が不十分で、課題は多くあったそうだ。
中途入社としてその状況を目の当たりにした土岐氏は、タスクの整理を行い、チーム構成を変えることで課題解消を進めたそうだ。
ここで、『モンスト』における分析業務フローが紹介された。
当時では、こちらのフローほとんどに課題が山積みであり、レポーティングに行き着くまでには辛い道のりだったという。
冒頭の分析依頼の受注についても、依頼者とのコミュニケーションロスがあり、依頼内容の意図や仮説が見えづらく、分析においてはネックになっていたそうだ。
また、本来は分析に加えて仮説立てや提案も行うべきなのだが、課題を精査するフローがなかったため、依頼された集計以上のことがほぼ出来ていない状態でもあったそうだ。
このコミュニケーションロスなどにより、仮説検証のための情報が不足しており、本来の課題に焦点が当てられていないこともあった。
▲課題に行き着くまでのフローチャート。情報の不足や課題精査が行われていないため、真の課題に辿り着けない事態が多かったようだ。
これらの課題について、土岐氏は精査していくことにした結果、メンバーのスキルセットに偏りがあることから起きていたと振り返っている。
また当時は、データ基盤を整えるための工数が膨らんでおり、詳細分析を行う時間も少なかったようだ。
他にも、企画メンバーとの関わり方も課題があったと話す。依頼されたことに対して十分に尽くすスタンスではあったが、そうなると工数が足りずに集計と可視化が主な業務となってしまい、本来やるべき詳細分析ができずにいた。
▲他にもメンバーの育成や人員不足、そのチームとの関わり方なども課題として積み上がっていた。
そんな事態に陥っていたので、データ基盤整備が落ち着いたタイミングにて分析チームを独立させたそうだ。マネージャーの協力の元、チーム内で行なっているタスクの整理を行い、分析チームを独立させることで、各メンバーが適材適所で専念できる環境を目指したという。
これにより、優先度の高いタスクが明確になり、分析業務に対しても時間が確保できるようになったそうだ。
また、タスクと役割の整理を行なったことで、人材採用の基準が明確化され、組織開発も最適化されつつあるという。
▲採用に関して、役割が明確化された分、人事担当の学習コスト増の懸念はあるそうだ。
他にも、レビュー体制や依頼のフォーマット化など、細かい点も改善していったそうだ。ちょっとしたことでも結構効果があることは多いと土岐氏は話し、課題に対して健全なアプローチが大事だと説いた。
まだまだ改善点はあるが、少しずつ改善されていっているという土岐氏。小さなことでも周りを巻き込んで改善していけば、見返りは大きいものなので、今後もデータ分析しやすい環境にしていきたいと話し、講演は終了した。
誰でもデータアナリストに…ゲームに特化したデータ分析ツール「ThinkingEngine」
シンキングデータ株式会社
Data Analyst
白石 陸
2019年まで国際協力機構にて日本企業の海外展開を支援。2020年に株式会社メタップスにジョイン。2021年3月から株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所主任研究員に就任。現在、シンキングデータ株式会社でデータアナリストとしてゲームアプリのデータ分析、さらにデータ・ドリブンな運営を支援。
本セミナーの最後はセミナー主催でもあるシンキングデータからもデータアナリストの白石氏が登壇した。
シンキングデータでは、ゲームに特化したデータ分析ツール「ThinkingEngine」が提供されており、「誰でもデータアナリストに」をコンセプトとしたツールだという。
自身もデータアナリストである白石氏は、仮説に仮説を重ねて、作品のツボを押さえた施策を提案できるのがデータアナリストの本懐であるとし、「ThinkingEngine」はその一助としてゲーム会社に寄り添っていきたいと話す。
各ゲーム会社が抱える課題として、必要となるデータアナリストの人材不足が挙げられる。データ解釈や統計に関わる知識やデータ管理エンジニアリングはもちろんのこと、ゲームの知識も必要となる。
採用にするにせよ中々適した人材はおらず、育成するのも時間がかかる。また外注しようにも効果検証がしづらいといった課題がある。
そこで、「ThinkingEngine」では誰でも扱えるツールとして提供されており、今では800社以上が導入、導入アプリ数は4,000を超えているそうだ。
デモアカウントの提供も行われており、データ分析に関するノウハウも提供しているという。気になる人は、同社が運営しているゲームデータ分析のためのコミュニティ「ThinkingData Community(β)」にも参加してみてはいかがだろうか。
この「ThinkingData Community(β)」は、ゲーム業界関係者であれば誰でも参加できるコミュニティとして、同業界内でどなたでも情報交換や交流ができる機会の提供を目指している。コミュニティ参加特典も準備しており、今後さまざまなアップデートを予定しているそうだ。
セミナーでは座談会も実施され、参加者からの質問などにも応えていた。各ゲーム会社、同じ悩みを抱えていることも多く、その後の懇親会でも盛んに情報交換を行なっていた。