ThinkingDataとgamebizは、11月24日、「データ・ドリブンなゲーム運営について迫る~ビッグデータの分析がもたらすゲームビジネスの成長~」と題したセミナーを開催した。
本セミナーでは、ゲーム内の「ユーザー行動からみた施策設計」に焦点を絞り、人気タイトルを運営されている株式会社コロプラ、株式会社MIXI、そしてゲーム分析を行なっている株式会社リーン・ニシカタのキーマンが登壇し、それぞれのタイトルでどのようなユーザー分析を行なったのか。また、その事例などについても語られた。
本稿ではその模様をレポートしていく。
ユーザーを多面的に理解すること…分析の醍醐味とは
シンキングデータ株式会社
白石 陸 氏
2019年まで国際協力機構にて日本企業の海外展開を支援。2020年に株式会社メタップスにジョイン。2021年3月から株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所主任研究員に就任。現在、シンキングデータ株式会社でデータアナリストとしてゲームアプリのデータ分析、さらにデータ・ドリブンな運営を支援。
本セミナーの主催であるThinkingDataからもデータアナリストの白石氏が登壇した。白石氏は以前、別の業界にて分析を行なっていたが、ゲームにおけるデータ分析の面白さと重要性に感銘を受け、今のThinkingDataにジョインするに至ったと言う。
白石氏からは”データドリブン”についての考え方が話された。”データドリブン”と一言で言っても、人によりイメージする内容は異なるだろう。白石氏からは「データを理由に意思決定し価値創造すること」と表現された。
なぜ”データドリブン”が重要になってきたと言えるようになったのかはサービスや情報の多様化によって顧客理解が困難になってきていることと、グローバル化によって様々なニーズも想定してなければならなくなったからだという。
ゲームに置き換えると、どのゲームがどういったユーザーに遊ばれているのか、どのように遊ばれているのかが分かりづらくなっている状況になっている。
これまでは、プロデューサーや経営者の勘や経験だけでも通用していたが、世間が先述のような動きとして早くなっている中では、通用しなくなってきている。
そこで、”データドリブン”を行うことで、サービスの迅速な改善やチーム内での言語の共通化,決定プロセスの透明化,そして市場の変化に対する対応力が身につくことができるようになるのだ。
そんな”データドリブン”だが、どのように分析を行なっていくのか。
白石氏は「ユーザーを多面的に理解する」と称した。
円錐を例に挙げると、真横から見ると二等辺三角形だが、真下から見ると円である。
1つの視点では、異なった形となり、2つの視点で初めて本来の円錐が理解できる。これが多面的に理解するということになる。
ユーザー行動についても立体的に理解できるようになると話し、これこそがデータ分析の本質的な意味となり、分析の醍醐味だと白石氏は語る。
そして、立体的に理解するには比較も行う必要がある。そこから例えば、「毎日起動している」という事象に対して、”数か月前はどうだったのか””ほかのユーザーはどうなのか”
といった比較をすることにより,「このユーザーは,平均と比べて高頻度で起動している」「数か月前まではあまり起動していなかったのに,最近は頻度が高くなっている」といった多面的な理解が可能となり,やっと施策に落とし込めるレベルになっていき、意思決定を行える段階に入れるのだ。
そして、分析の方向性なども紹介された。データ分析においては、ビッグデータからいくつかのKPIを抽出して行うものだが、大きく分けて二つの手法があるという。
一つが、「データ起点」で考えるもの。膨大なデータを逐一分析して特徴を見つけ出していくもので、これまでにないような示唆を得られる可能性はある。その一方で,手間がかかるというハードルがあり、利活用を完遂させづらいとされているそうだ。
もう一つが、結果から探る「イシュー起点」で考える手法だ。定常的にKPIをチェックし,その変動をみて,その理由を探るといったものだ。ゲームで言えば、主課金率が下がった理由を探し,ツボを見つけてそこを押さえれば,課金率が上がる可能性が高くなるというもの。
白石氏は「イシュー起点」によるデータ分析について,比較的実現可能性が高くまっとうな分析手法であると話していた。
ゲーム開発や運営においては、ユーザー行動という結果があるので、「イシュー起点」によるデータ分析が効果的だと述べられた。ここで、ThinkingDataが提供するデータ分析ツール「ThinkingEngine」の特徴も紹介された。
「ThinkingEngine」はそのサービスの設計思想として、「誰でもデータを扱える」「誰でも高度な分析手法が使える」を挙げ、その利便性や考えに反響もあり、現在では800社以上のゲーム企業がこのツールを使っているという。
既存顧客からは「ThinkingEngine」を”神ツール”と称されるほど、ほとんどのゲーム企業のニーズに応えているそうだ。その背景に、データドリブンにおける外部環境の変化や顧客の分析ニーズに対応したプロダクトの改善を常に行っているからだと白石氏は話す。データ分析にお悩みの方はお気軽に相談してほしいと、講演は終えた。
ユーザー分析によって定性的な声とKPIの歪みを解き明かす
株式会社コロプラ
能勢 直樹氏
前職ポケラボで開発ディレクター2件を経験した後、2016年にコロプラ入社。現在は『白猫GOLF』のディレクターを務める。
コロプラからは『白猫GOLF 』のディレクターを務める能勢氏が登壇した。能勢氏は同社の作品『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』についても過去に担当しており、その際に行った施策について振り返られた。
『黒猫のウィズ』といえば、2013年にリリースされ、今年で10周年を迎える長寿タイトルと言える。氏は2018年から本作の運営に携わることになったそうだが、当時も5周年を迎え、ゲーム内のイベントもユーザーからの評価も高かったそうだ。特にイベントで描かれたストーリーも評判が良く、当時のガチャ施策も反響があったようだ。
一見、イベントは大成功と思える成果だと言えるが、ここで能勢氏はイベント参加率にも注目。本イベントは「黄昏メアレス」という人気シリーズであるが、過去のイベントと比較してもイベント参加率が落ち込んでいることがわかった。
SNS反響などの定性的な声は非常に良いのに、イベント参加率といったKPIは悪化している。そういった言わば歪んだ状況となっていたので、ユーザー層の分析を行うことになったそうだ。
その際に能勢氏が行ったユーザー分析は大きく三つのアプローチで行ったそうだ。一つは「Firebase」になり、Googleの情報をベースとした分析ツール。そして、ゲーム内にて実施したイベントアンケートになり、定性的な意見を集約してマスデータ化を行ったそうだ。
そして、コロプラ社が独自で開発した各KPIが分析できるツールも活用しているそうだ。アンケートやプラットフォームから抽出できる情報ももちろん必要だが、しっかり自社内で分析できるツールも必要だと能勢氏は考えているとのことだった。
分析の結果、『黒猫のウィズ』は大きく三つの層がいることが判明した。クイズRPGとなるので、クイズが好きなライトユーザー層、デッキ構築などの戦略性が好きなヘビーユーザー層、そしてその世界観が気に入っているシナリオが好きな層だ。
このユーザー層から、「本格化しすぎた長編シナリオイベントに、ライトなクイズ好き層がついてこなくなっているのでは?」という、一つの仮説を立てたそうだ。
実際に、シナリオ部分の長さは3〜4時間に及ぶものとなっており、シナリオと次回イベント参加率の相関性については負の相関が見られたそうだ。要するに、シナリオ時間が長いほど、次回イベントの参加率が落ち込む傾向にあるという。
逆にイベント踏破率と次回イベント参加率については、正の相関性が見られ、イベントクリアをするほど次回のイベントも参加してもらえる傾向であったようだ。
他にも、クイズがゲームのコアとなる作品である為、新クイズの有無も影響があったようだ。新クイズを追加した場合、また新しいクイズに期待してなのか、次回のイベントに参加する割合は高くなっていた。
このことから、シナリオが評価されているのは間違いなく、対策をするのであればいかに達成感を感じてもらえるかという点と、ゲーム性のコアとなるクイズに力をいれることが改善策として掲げられたそうだ。
具体的には、シナリオの文量を減らし、読みやすい話構成にできるようシナリオライターと調整していったそうだ。その際も、各話のシナリオスキップ率なども考慮して検討していったという。
達成感では、クエスト数と報酬までの必要ポイント数を低減させ、参加率と踏破率いずれも向上するような施策を行った。
そして、クイズゲームとしての原点回帰を掲げ、ゲーム内の演出よりも新クイズの追加にリソースを割くようにしたそうだ。
結果、イベント参加率は徐々に更新されていき、2018年から2021年にかけては+50%近くまでイベント参加率が向上し、ゲーム全体として良い影響となったそうだ。
能勢氏からは、分析することで、定性的な声とKPIとの乖離の謎がある程度理解することができたと振り返る。
普段の運営だけだと、どうしても熱量の高いユーザーの声だけに目をいきがちになり、サイレントマジョリティが求めているものとに差が生まれてしまうので、ユーザー層の分析でしっかりと見極めることが重要だと説いた。
また、分析や改善においては、一つの視点ではなく、複数の視点から対策を行うことも重要だと話し、講演は終えられた。
▲同社では、昨年10月より最新作『白猫GOLF』が世界約170カ国で配信されている。本物に近いゴルフ体験を掲げているので、気になる人はプレイしてみよう。
分析は”誰に対してどのような施策を行うのか”を考えるのが肝
株式会社リーン・ニシカタ
西方 智晃 氏
株式会社ディー・エヌ・エー在籍中、分析基盤構築、大規模データ集計、機械学習などの分析業務を手がける。2018年に株式会社リーン・ニシカタを創業し、今は分析×マーケティングを活かしたモバイルアプリへのグロースハック支援を行う。
他にも、ゲーム分析を専門として行うリーン・ニシカタの西方氏からも講演が行われた。
西方氏が代表を務めるリーン・ニシカタはゲーム分析を得意とした分析会社である。「 “ 現場 ” における意思決定者の参謀役に 」をミッションとして掲げており、昨今の多様で動きの早い市場に対して、各社が健全な意思決定が行えるように分析支援を行なっている。
特にゲーム分析においては、他の産業と違い、ユーザー毎に遊び方や目的が異なる為、コンバージョンが不明確で難しいと語る。クエストクリアが目的な人もいれば、キャラクター収集が目的な人もいる。
それゆえに、誰に対してどのような施策を行う為に分析するのかを予め決めておくことが重要になるそうだ。
例えば、一つの施策においても、ヘビーユーザーとミドルユーザー、ライトユーザーと全てのユーザーに効果的である施策というのはほとんどないと言える。しっかりとユーザーをセグメント毎に分けて分析していくことが重要になるのだ。
ではどのように分析していくのかと言うと、
多くのゲームではDAUやARPU、課金率などがKPIとして設定されていることが多い。それらの主要KPIを分解していくことから行なっていくという。
各ユーザーをSSS〜Fなどの段階別に分解していき、その中で主要KPIがどのように分布しているのかを見ていくそうだ。ここで、どのような施策を誰に向けて行なったかによっても注目していくKPIは異なってくる。他にもゲーム性によっても見るべきところは変わっていくそうだ。
見るべきKPIの分布によってユーザー層を各セグメントにて分解・理解していくことが可能となる。
そこからさらに、分解した各ユーザーセグメント毎の行動理解も行なっていくそうだ。リーン・ニシカタでは「Engagement Matrix」と銘打った手法にて行動理解を行なっているという。
これは特定の行動やKPIを抽出し、認知や熱量を可視化して評価できるようにしている手法だ。
可視化することでゲーム内のアクションを分類することができ、ユーザーセグメント間での違いを比較して、対策につなげることができるそうだ。
そしてそこから、ユーザーが何を求めているか、といった各ユーザーセグメント毎のニーズ理解も分析しているそうだ。
他にも、ゲーム内のイベント振り返りにおいても、しっかりと分解していくことが大事とも説いていた。例えば、あるイベント終了後、その振り返りとして前回イベントよりも各KPIが上回っていたとする。
その場合、イベントは成功と言え、課題もないとも言えるが、ここで改めてユーザー理解という分析が入ると印象は異なってくる。
イベントにおけるユーザー行動分析を行なった結果、ヘビーユーザー層が不満を持っていたり前回比を下回っていた場合は必ずしも成功とはいえない。
もしライトユーザー層に対してARPPUを向上させる為の施策だとすると成功だと言えるが、この点においても誰に対してどのような施策を行うのかを明確にしていくことが大事だと語られていた。
このように分析においては意思決定の基準として重要なものになるが、どのように考えていくかも必要だと話し、参謀役として今後もゲーム会社を始めとした多くの会社の手助けをしていきたいとして西方氏の講演は終了した。
『モンスト』で行う分析とは…分析そのもの以外にも事前準備が重要
株式会社MIXI
佐藤 俊宏
『モンスターストライク』ディレクター。SNS「mixi」の健全化・渉外業務などを担当し、2015年より『モンスターストライク』に参加、プランナーとして運用・開発を担当し、2022年よりディレクターとしてアウトゲーム開発全般を統括する。
続いて、MIXIからはモンスターストライクのディレクターを務める佐藤俊宏氏が登壇し、同社の人気作『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)ではどのようにユーザー分析がゲーム運営に取り入れられているかが語られた。
まず前段として、『モンスト』の運用・開発体制について語られた。『モンスト』では、運用と開発で組織は分かれておらず、スムーズな意思決定や実装が行われる体制となっている。なので、ほとんどのプランナーは運用と開発いずれも兼任となっているそうだ。
『モンスト』では、ver アップにおける開発はおおよそ1ヶ月から2ヶ月にて行われる。企画から優先度を確立したのちに、仕様を決め開発を進めていく。
このような体制から、全てのプランナーがゲームに関わる情報にアクセスできるようにしている。ユーザーデータなどの抽出や加工は解析チームが担当をし、プランナーは企画立案に注力できるような体制で『モンスト』は運用されているのだ。
他にも定性的な要素の分析も行うようにしている。例えば、ゲーム内にてアンケートを行い、認知率の調査やキャラクターへの好感度を調査し、できる限り可視化するようにしているそうだ。
例えば、キャラクターのイラストについてはテキストマイニングにて分析を行なっており、実際にユーザーから抽出したポイントと、事前に社内で設定しておいたポイントとどういった差分があるかを見ているようだ。ポジティブな要素は今後の制作方針として活かし、ネガティブだった要素は活用を控えるなどの判断材料となる。
他にも、『モンスト』では公式YouTubeチャンネルで「モンストニュース」を定期的に配信している。こちらは主にユーザーへの発信手段ではあるが、それと同時にユーザー反響を確認できる場としても活用しているそうだ。
分析される前の生のデータとしてこちらも重要視しており、今後の制作や情報発信の参考にしているという。
続いて、開発面においてもどのように分析を活用しているかも語られた。
『モンスト』では機能改善もフローとして確立されており、その点において「データ参照」と「仮説立て」、「成果の分析」も重要視している。改善フローをサイクルとして回すことも大事であるが、分析や解決策に至るまでの事前準備こそが大事だからと佐藤氏は話す。
ここで、ユーザー分析をもとに企画・改善された事例も紹介された。『モンスト』では、「モン玉」というログインやクエストプレイで貯まるポイントでガチャが引ける機能が2016年にリリースされた。
この「モン玉」は、ユーザーがより長く遊んでもらい、遊びやすくなってほしいという思いから実装されたが、第2段階でガチャが引かれてしまう層が多かったそうだ。「モン玉」はLv4の第4段階まで用意されていたので、機能がうまく活かされていないという課題感があったそうだ。
そこで、まずは具体的な改善案を練る前に、ユーザーのプレイデータをもとに仮説を立てて、チーム内で議論を行なったという。
議論の結果、「モン玉」の報酬に魅力が無いことや、毎日プレイへのハードルの高さがその原因ではないかという仮説が立てられたようだ。
この仮説から行われた改善策として、リニューアル機能として「ガチャリドラカード」が実装された。こちらは、報酬が選択形式として各ユーザーに適した報酬になるような設計にした他、毎日プレイ以外でもポイントを獲得できるようにした機能となった。
こちらの改善案の結果、最大枚数の報酬を得るユーザーが増え、振り返っても改善成功の施策となったそうだ。
▲「モン玉」リニューアルの各アクションを改善フローに当てはめるとこのようになる。
この結果は、分析そのものよりも、そこに至るまでの事前準備が功を奏したと佐藤氏は振り返る。しっかりとデータ参照を行い、適切な仮説が立てられるように議論を行なっていくことが大事だと話した。
その上で、いかに早く改善フローを回し続けるかが大事になると話し、プランナーに限らずチームを巻き込んで早く動ける体制も鍵となるとして、今後もユーザーに喜んでもらえる『モンスト』でありたいと講演を終えた。